【2024レポート】作曲ワークショップ(9月6日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月6日作曲ワークショップの模様をレポートしてもらいました。

作曲ワークショップでの講義は9月6日(金)が最終日。午前は招聘講師の哲学者・柿木伸之が「今、オペラを創るために-現代世界における音と言葉―と題した興味深いレクチャーを行なった。美学を中心に哲学を専門とする柿木は、来夏に予定されている細川俊夫のオペラ『ナターシャ』上演を見据え、「オペラとは何か」という問いを現代における音と言葉の結びつきから掘り下げた。

講義ではまず思想家ベンヤミンの言語論が取り上げられ、言葉が単なる伝達手段ではなく、存在を証言し、他の存在と響き合うものとして捉えられる点が強調された。具体的には、ベンヤミンは、言語が物事の存在を明示化し、その本質を引き出す力を持つと述べている。また、ベンヤミンは芸術を一種の「言語」と見なし、それが自然界の音や物質の言語と深く関わるとしている。その一例として、自然の音を新たな音楽の言語として創造した試みとしてオリヴィエ・メシアンの『鳥のカタログ』紹介された。ここからさまざまな言語/言葉と音楽の深い結びつきを問う、その形式としてのオペラ、そしてその多声性・多言語性に触れ、芸術の自由の創造と新たな音楽言語の誕生が結びついていることが示されている。

講義ではその追究としてのルイジ・ノーノのオペラ『イントレランツァ(非寛容)』が取り上げられた。この作品は1950年代から1960年代の社会的・政治的状況を反映しており、伝統的なオペラの枠を超えて、多層的な音楽表現と新たな音楽言語を探求している。強烈な緊張感と音響の変化が際立ち、多様な声やテクストを用いて観客に強いメッセージを伝えるこの作品は、多次元的に移民労働者や社会的な問題を描き、現代の「地獄」を体験させる特徴がある。現代の社会問題が予言的に描かれ、音楽の新たな表現を模索する重要な意義を持つ。

柿木はこのように、音楽とオペラを介して提供される現代の社会問題に対する深い洞察と、多声性を通じて広げられる音楽の表現の可能性について『イントレランツァ』を通して言及した。

この考察を踏まえ、講義の結論としてカントの哲学が引用され、他者との間で言語が創造されることが真の自由の実現に繋がると力説された。

この充実した講義は、作曲ワークショップの参加者に対して創作に向き合う上での大きな励ましとなっただろう。(金井勇)

【2024レポート】ピアノと弦楽の競演 (9月7日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月7日 「ピアノと弦楽の競演」コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月7日(土)は伊藤恵プロデュースの第2弾「ピアノと弦楽の競演」コンサートが行われた。

1曲目はアルバン・ベルクの『クラリネットとピアノのための4つの小品』。それぞれ非常に短い小節からなるミニアチュールの作品。上田希のクラリネットと伊藤恵のピアノ。

第1楽章は上田のミステリアスな問いかけに、伊藤が明澄なピアノで答える。その連なりが刹那の火花を散らし、燃え上がる瞬間へと誘う。幻想的なピアノの中から静けさを湛えた「うた」が立ち昇る第2楽章。第3楽章ではおどけた表情の疾走の際で急激に落とすテンポの落差が劇的であり、スタッカートやフラッターツンゲといったテクニックが効果的に響く。第4楽章では深く沈む伊藤のピアノの中で、上田のスーパー・ピアニッシモが静寂を醸し出す。エンディングに向かう、両者の反復の強靭な響きの交錯が印象的であった。

2曲目はブラームスの『ピアノ五重奏曲目ヘ短調 作品34』。伊藤恵のピアノとクァルテット・インテグラの共演。

深淵で情熱的な第1楽章。煌めきを予感させるクァルテット・インテグラの一体化した響きが、伊藤の華やかさを湛えた揺るぎないピアノの身振りと重なり合い、音楽の織り成す一瞬の光が浮かび上がる。情熱から一転した第2楽章は静かな抒情。ピアノの柔らかい旋律を弦が穏やかに包み込む。第3楽章は勇壮な主題で前進するスケルツォ。静寂との対比による交代劇。ピアノと弦楽の毅然とした音調が雄大に響き渡る。そして緊張と弛緩が交差する第4楽章。深く陰鬱に沈み込むピアノと、そこから立ち現れ飽和する弦楽。変転してユニゾンで情動的に立ち上がる瞬間との交融。その対比の妙が圧巻であった。

後半はメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲。瑞々しく立ち上がる軽やかな歌が、豊かな会話となってヴァイオリン間で交わされ、豊かで多層的な構造を形成する第1楽章にまず、聴衆は大いに魅了された。

第2楽章に入るとヴィオラに導かれチェロが悠然と歌い出し、山根一仁のヴァイオリン・ソロが、伸びやかな音色で奏でられ、楽曲の親和性を鮮やかに引き継いでいる様子が魅力的であった。

目まぐるしく、しかし密やかに疾走する第3楽章では、随所で交わされる短い会話が織り交ぜられ、心踊る軽快な音楽が展開された。

チェロのトレモロで鮮烈に始まる第4楽章。凝縮された強靭なエネルギーが奏者たちの間を駆け巡り、音の波は炎のように燃え上がる。その響きは胸の奥底を深く揺さぶり、凛とした美しさと圧倒的な力強さに満ちていた。(金井勇)

【2024レポート】細川俊夫と仲間たち―アルディッティ弦楽四重奏団を迎えて― (9月6日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・神山奈々さんに、9月6日 「細川俊夫と仲間たち―アルディッティ弦楽四重奏団を迎えて―」コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月6日(金)メインコンサートは、「細川俊夫と仲間たちーアルディッティ弦楽四重奏団を迎えてー」。

前半は、ルイジ・ノーノの作品「. . . . .苦悩に満ちながらも晴朗な波…」から始まりました。エレクトロニクスの使用はこの音楽祭にとってチャレンジングな試みです。1976年に録音された音に、身体を使いながら対峙したのはピアノの北村朋幹。録音の残響を丁寧に聴きながら、自らはピアノから発音し空間性をコントロールして聴衆を未知の場所へと導きます。生のピアノの音と空間的に配置された4つのスピーカーによる音響が混ざり合い新しい空間が作られていく様子はインプロヴィゼーションの要素もあり、時にはピアノが影になり、時には録音が影になるヴェネツィアの街のよう。1976年と今日が一つになる瞬間を体験することが出来ました。

続く上野ケンの新作は、「陰影礼賛」。ボイスパフォーミングを含む幅広い創作活動を展開するアーティストが弦楽四重奏という古典の編成にどのように向き合ったかを垣間見るような力作でした。微分音セリーによるミニマルミュージックの手法がアメリカ的に感じられました。

イルダ・パレデスの作品、ピアノと弦楽四重奏のための「ソブレ・ディアロゴス・アポクリフォス」はアルディッティ弦楽四重奏団の良さを熟知した弦楽の書法が際立ちます。そのためメンバーは、とても楽しそうに演奏しており、音楽も遊び心のある明るいものでした。私は、この作品を先週サントリーホールでも聴いていますが、残響の長い越前市文化センターはとても良いバランス。またピアノの内部奏法、ミュートの調整が初演を経て育ってきた印象がありました。この曲でも北村さんは献身的に大活躍でした。

続くリゲティの弦楽四重奏曲第2番は、この弦楽四重奏の「顔」のような演奏で、素晴らしい内容の作品に触れることが出来、気が引き締まる思いでした。事前にアルディッティによるクァルテット・インテグラのマスタークラスを見学していた作曲ワークショップの受講生にとっては、大変勉強になる経験となったことでしょう。

最後は細川俊夫の最近作、ピアノの北村とアルディッティ弦楽四重奏団のために書かれた「オレクシス」。美しい絵巻物をピアノの音がめくっていくような作品でした。聴衆の皆さまが息の長い音楽に素晴らしい演奏でひき込まれていく様子を感じながら、武生の歴史、そしてこの音楽祭の未来について思いを巡らせた演奏会となりました。(神山奈々)

【2024レポート】作曲ワークショップ(9月5日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・我妻英さんに、9月5日作曲ワークショップの模様をレポートしてもらいました。

この日の作曲ワークショップは、午前に受講生の公開レッスンがおこなわれ、午後のはじめに塚本瑛子による自作についてのレクチャーが労働福祉会館でおこなわれた。

 塚本はベルリン在住でドイツを中心に国際的な活躍を展開しており、若い世代を代表する実力派作曲家。2007年に初めてこの武生国際音楽祭を訪れてから本格的に現代音楽への歩みを始めたという塚本。そのレクチャーはまず、音という現象や作曲という行為についての彼女自身の思索を語ることから始められた。

音は現象物理学的に存在し客観的に観測可能なものだが、我々が音楽作品を聴いたり創作したりする場合、それはしばしば一人一人のプライヴェートな感覚に基づく(どう聴こえるかといった他人の感覚は分からない)。また、音楽を受け取る聴覚とその他の感覚には大きな違いがあり、例えば、視覚の場合、目に映る物はずっと存在しており実際に触れることも出来る一方、聴覚の場合は、他の感覚で補えるものが無い、と塚本。作曲とは、サウンドそのものの操作が目的ではないと述べた。音符を含めた音楽のNotationは書かれたものに対応する何かが存在するという前提で成り立っているが、実際にはありとあらゆる複雑な要素をひとつの記号に代表させている、という本質的な指摘。このように、音楽以前にそれを構成する音というものの特性を思考し、作曲という行為の根源や意義を問う姿勢のレクチャーは、受講生にとって自らの創作を改めて見つめ直す貴重な機会になっただろう。

作品は、モダン楽器に比べて音色が不均質という特性を生かすべく試みられたバロック・ファゴットの独奏曲、共同体をテーマに奏者の発話やハミングを用いて脱作品化を図ったピアノの独奏曲、そして音楽の一要素としての静寂や沈黙の力に気付かされたアンサンブルの作品と充実した3作がレクチャー内で取り上げられ、受講生は集中して耳を傾けていた。

続いて、越前市文化センター小ホールにてアルディッティ弦楽四重奏団による公開マスタークラスがおこなわれた。

 現代音楽に於いて世界最高峰の演奏団体であるアルディッティ弦楽四重奏団は、今年結成50周年を迎え、今夏来日している。今回は、クァルテット・インテグラの演奏するリゲティ作曲《弦楽四重奏曲第2番》を指導した。アルディッティ弦楽四重奏団のメンバーの助言は、ハーモニクス奏法で高次倍音を奏でる場合の指の押さえる角度や弓の圧力の掛け方に至るまで極めて実践的なものだった。ノイズを生じさせる奏法に於いても、徹底して厳密な音色の追求がなされたのがひときわ印象的であった。もとより驚異的な精度で聴かせたクァルテット・インテグラの演奏は会場の聴講者全員の感嘆を招いたが、アルディッティ弦楽四重奏団の指摘を受けて即座に反応しさらなる高い次元を実現していく様子はまさに圧巻。メンバー間で時折交わされるユーモアにも和まされつつ、会場は白熱した空気に包まれた。

 この公開マスタークラスは、森紀明が通訳を担当。自身も作曲家・演奏家の顔を持つ彼は、複雑な楽曲の構造や専門的な演奏法などについての内容も聴講者に伝わる明快な通訳をおこない、公開マスタークラスの円滑な進行に貢献してくれた。この場を借りて感謝したい。(我妻英)

【2024レポート】フルート&ハープの名曲と「浄夜」 (9月5日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・神山奈々さんに、9月5日 フルート&ハープの名曲と「浄夜」コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月5日(木)メインコンサートは、フルート&ハープの名曲と「浄夜」。コンサートの前半はフルートとハープという編成に焦点あてたプログラム。フルートはマリオ・カーロリ、ハープの吉野直子で演奏されました。1曲目のロータ作曲のソナタは、可憐な楽曲。2楽章の弱奏の表現が際立つ演奏でした。続くジョリヴェ作曲の嬉遊曲「素朴に」は牧歌的で親しみやすいメロディの一方で緻密なアンサンブルが要求される技巧的な楽曲。ヴィルトゥオーゾの演奏によるフルートの音色の多彩さには驚かされました。

クラ作曲の「組曲」は、反復されるアフリカのリズムが特徴的な楽曲。未知の世界への憧れを明るく感じさせるような躍動的な演奏を実現していました。

細川俊夫作曲「アラベスク」は、フルートとハープにヴィオラを加えた編成でした。ヴィオラはこの音楽祭に毎年参加している田原綾子です。ハープによって作られる「場」からフルートとヴィオラが生まれてくるような音楽。終盤のハープソロが際立って美しく素晴らしい演奏でした。

 演奏会の後半はシェーンベルク作曲、弦楽六重奏曲「浄夜」。ヴァイオリンは、白井圭、山根一仁。ヴィオラは、山本周、田原綾子。チェロは、上野通明、柴田花音。
 まず後期ロマン派の作品を演奏する上で、物語を含んだ楽曲の構造を全員が前提として自然に理解し共有していることが素晴らしかったです。また、この曲は大変演奏が難しい弦楽合奏ですがそれを全く感じさせず、高い集中力で退廃的かつ繊細な表現を作っていたことに驚嘆させられました。曲の後半、調性が明転してからの部分は高らかに歌いすぎず、温かく優しいチェロの旋律が柔らかな希望のように響きました。(神山奈々)