9月5日 音楽祭短評②(金井勇)

 9月5日、第21回武生国際作曲ワークショップが開幕した。音楽監督の細川俊夫をはじめ、3年ぶりに実現した海外から来日の招待作曲家、そしてこの日は12名の意欲ある受講生が会場である越前市労働福祉会館へ一同に集い、最初の顔合わせを果たした。受講生の経歴もバックグラウンドも、また作曲に向かう上での関心も様々であり、武生が作曲を学ぶ広く開かれた場であることがこのことからも伺える。

 さて緊張した面持ちで始まったオリエンテーションは、まずワークショップアシスタントである木下正道による武生国際音楽祭の歴史、作曲ワークショップ誕生からの過程などの概要の解説から始まった。自己紹介を経て次第に打ち解けたムードとなりつつも、これからレクチャー、レッスン、コンサートがタイトに詰まった濃密な一週間をともに過ごす期待と覚悟が織り交ざった雰囲気が全体から垣間見えてきたような気もした。 初日後半は、今回で2回目の参加となる招待作曲家の中堀海都によるプレゼンテーションが行われた。ニューヨークに在住し、世界各地で作品が演奏されているインターナショナルな活動を展開する中堀の、電子作品から室内楽、さらに近作のオペラまで編成も内容も多岐にわたる作品が紹介された。明晰ながら謙虚な人柄も好印象であるが、そうしたパーソナリティを伺えつつも主張の軸が貫かれた作風が独特の音の煌めきを放つ。紹介された作品を聴きながらその魅力を改めて感じ入った。

武生国際音楽祭では現代の音楽も豊富にプログラムされており、そうした新しい音楽の演奏に通暁した演奏家も多く登場する。作曲ワークショップではこのような現代音楽のスペシャリストとしての側面も併せ持つ演奏家による楽器のレクチャーも企画されている。初日の9月5日の最終講義ではハープ奏者の松村多嘉代が解説を行った。ヴァイオリンの辺見康孝とともにデュオを組み、多くの新作も手掛ける松村のレクチャーは、現代の作品の演奏に精通した音楽家ならではの、作曲家が何を望み、あるいは何に躊躇するかといった深い理解のもとに丹念にすすめられた。作曲家に知っていてほしい楽器の情報や作曲をする上で有効的かつ魅力的な新しい演奏方法などが充実した資料と実演をもって伝えられた。ワークショップ参加者との質疑応答も活発になされ、それは作品を求める演奏家と作品を生み出したい作曲家との貴重な邂逅の時間であった。

評者:金井勇(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
東京音楽大学作曲専攻卒業、同大学院修了。2012年、2015年及び2016年武生国際作曲ワークショップ招待作曲家。「新しい地平」における近作としては『from Being』(スロウィンド木管五重奏団)、『to Becoming』(赤坂智子と大田智美)、『邯鄲の夢』(マルコ・デル・グレコ)等がある。また2019年は鈴木優人補筆校訂版のモーツァルト作曲『レクイエム』の武生版オーケストレーションを行った。