9月5日 音楽祭短評①(金井勇)

9月5日(月)のメインコンサートは常の会場とは異なり、越前市いまだて芸術館にて行われた。コンサートプロデューサーでピアニストの伊藤恵がプロデュースするシリーズの第1回である当夜は「チェロ音楽の夕べ」と題され、現在日本の若手チェリストの中でも最も中心的な存在であり、今後の音楽界を間違いなく牽引することとなるであろう3人のチェロ奏者が登場し、異なる作曲家が残した3つの「チェロ・ソナタ」をそれぞれ演奏した。

上野通明によるメンデルスゾーンの第2番(二長調)は「若々しい躍動感にあふれる」と解説されるメロディアスな作品であるが、それを華麗に飛翔するヴィヴィッドな演奏で魅了した。息の合った津田裕也によるピアノ。

水野優也によるフォーレの第2番(ト短調)は滔々と紡がれる、あるいはそれを水の流れと描写したいような美しい表情に身を浸すかのような感覚であった。水色の衣装も目に鮮やかな伊藤プロデューサーのピアノ。

プログラム後半は岡本侑也によるベートーヴェンの第5番(二長調)。快活に、しなやかに、幅の広い表現が余すことなく展開され、時空を越えた、あたかも同時代の音楽を聴いているかのような興奮を覚えた。ピアノは北村朋幹。昨年もハインツ・ホリガーの難曲を驚異的なテクニックで魅せた岡本と北村のデュオであったが、「同時代的に」と感じた根幹にはその鮮烈な印象が重層的に脳裏に甦ったのかもしれない。

評者:金井勇(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
東京音楽大学作曲専攻卒業、同大学院修了。2012年、2015年及び2016年武生国際作曲ワークショップ招待作曲家。「新しい地平」における近作としては『from Being』(スロウィンド木管五重奏団)、『to Becoming』(赤坂智子と大田智美)、『邯鄲の夢』(マルコ・デル・グレコ)等がある。また2019年は鈴木優人補筆校訂版のモーツァルト作曲『レクイエム』の武生版オーケストレーションを行った。