9月7日 音楽祭短評(木下正道)

  7日は朝早くから作曲ワークショップ、この日はまず、日本初登場のアレッサンドロ・ソルビアーティさんのレクチャーでした。 自作の「交響曲第2番」を中心に、自らの出自や音楽観を縦横無尽に英語で語りました。陽気に、物凄い分量を話すので、通訳の人がついていくのが大変そうでしたが、お話の内容は論理的で分かりやすいものです。

そしてこちらも初登場の、スペインからいらした批評家のパコ・ヤニェスさんが、アンサンブルや音色などの飽くなき探求など、西洋音楽の大きな柱の一つである「弦楽四重奏」の広く深い歴史を、主に20-21世紀に焦点を当てた二回のレクチャーの最初の回で、非常に明晰で、かつ系統立てたお話でした。次のレクチャーも楽しみです。

  アルディッティ弦楽四重奏団のメンバーによる公開レッスンは、8日に演奏されるクセナキスの「アケア」について、当日の演奏メンバーを迎えて、二時間みっちりと行われました。弦楽器の弓使いや音程の揺らし方、また合わせるポイントなどを的確に指摘していくことで、明らかに音楽がさらに生き生きとしていく様は驚くべきものでした。

夜はマリオ・カーロリと吉野直子さんによる「珠玉のデュオコンサート」。予定されていた演目に加えて、バッハやテレマンなどの作品が追加され、休憩なしの一時間少しの間、フルートとハープによる奥ゆかしい響き、穏やかで繊細、かつ奥行きある豊穣な音楽が繰り広げられました。前日6日のアルディッティ弦楽四重奏団による激しく厳しい圧倒的な音楽も大変素晴らしいですが、この日のように、リラックスして聞ける雰囲気の中にいられる音楽の体験も素敵なことだと思います。そして時折閃く名人の創意、音色の多様性がとても斬新でした。

評者:木下正道(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
1969年、福井県大野市生まれ。2013年からは「武生国際音楽祭・新しい地平」の運営アシスタントを務める。ここ数年は主に室内楽曲を中心として年間20曲程度を作曲、初演。現在は、様々な団体や個人からの委嘱や共同企画による作曲、優れた演奏家の協力のもとでの先鋭的な演奏会の企画、通常とは異なる方法で使用する電気機器による即興演奏、の三つの柱で活動を展開する。東京近辺で活動する現代音楽に関心を寄せる演奏家のほとんどがその作品を初演、再演している。