【2023レポート】②弦楽四重奏「古典」の系譜(神山奈々氏)

武生国際音楽祭2023レポート第2弾。今回は作曲家の神山奈々さんです!

9月5日(火)メインコンサートは伊藤恵プロデュースによる、弦楽四重奏「古典」の系譜。この日の曲目は、ハイドン作曲「弦楽四重奏曲 第34番」、

バルトーク作曲「弦楽四重奏曲 第6番」、ドヴォルザーク作曲「弦楽四重奏曲 第12番『アメリカ』」でした。

これら3曲は、12人の弦楽器奏者によって演奏されました。この中で、四重奏団を組んでいるのは「クァルテット・インテグラ」の4人、それ以外は超一流のソリストの集まりとして成立している四重奏が2組ということです。一つのコンサートの中で、この差を聴くことが出来るというのが特殊で貴重な体験でした。

ハイドン作曲「弦楽四重奏曲 第34番」では、NHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務めた白井圭さんの作る1stヴァイオリンとしての推進力がある音楽に、若い世代のホープである2ndの外村理紗さんが寄り添うのでは無く、望んで一体となっていくようなアンサンブルが見られました。それはまるでソリスト同士の出会いとお互いの尊敬の眼差しを聴くようなやり取りでした。とりわけ第2楽章では、音色の共有にこだわった演奏が、コミュニケーション豊かなリハーサルを窺わせました。白井さんの身振りと音色は、ヴィオラのルオシャ・ファンさんとチェロの岡本侑也さんに確かに受け継がれていて、その軌跡を聴くことは希望に満ちた体験だったと思います。

 続いては「クァルテット・インテグラ」によるバルトーク作曲「弦楽四重奏曲 第6番」。私は、弦楽四重奏団というのは寝食を共にして、初めて自分たちの声を手にするようなイメージがあります。彼らがそれらを経てTuttiで手にしたのは非常に艶やかな音色。精緻なアンサンブルの中、時折聞こえてくるインテグラ独自の音というのが明確に、この四重奏団のキャラクターを描いていました。それは、この4名が弦楽四重奏団として存在する必然性を感じさせるのに十分な美しさでとにかく凄い、素晴らしいの一言に尽きる演奏でした。

最後は、ドヴォルザーク作曲「弦楽四重奏曲 第12番『アメリカ』」。こちらは個性のぶつかり合いとも言えるようなソリスト同士の熱い戦いでした(殴り合いみたい)。その中で、1stヴァイオリンの郷古簾さんの表現が際立っており、東欧への望郷を感じさせるものだったことは「アメリカ」の中におけるローカルであることの強さのようなものをドヴォルザークの当時の状況と重ねながら聴きました。このように多層的な背景を感じさせる個性のハイブリッドな弦楽四重奏というのは、その歴史において新しい価値観かもしれない、と思いました。2ndの山根一仁さん、ヴィオラの山本周さん、チェロの上野通明さんはそれぞれに異なる表現でドヴォルザークに対峙しています。それらが、1曲の中で聴こえてくると新しくも不思議な音楽体験でした。