9月8日 音楽祭短評①(金井勇)

 作曲ワークショップ4日目の9月8日はまず、招待作曲家アレッサンドロ・ソルビアーティの、前日に引き続いての2回目のレクチャーが行われた。この日のレクチャーでは2010~11年制作のドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』「大審問官」を題材とするオペラ作品《LEGGENDA》が映像とともに紹介された。信仰心の隔たりを問う葛藤の物語が、本水を使った舞台で大胆に展開される。本日は作曲の核となるシーンを一部紹介されるにとどまったが、いずれこの作品全体を実際の舞台で見たいものである。

 午後は招聘音楽学者のパコ・ヤニェスによる、これも前日に続くレクチャー。西洋音楽における重要な音楽形態である弦楽四重奏の発展の歴史をパコはTree(木)とその枝に準える。二日目となるこの日はリゲティ、ノーノ等の20世紀の重要な作曲家たちの作品の例から、現在の若い世代の作品の紹介にまで至り、その伸び広がりゆく枝葉の未来を暗示ししながら感動的に解説した。

 午前・午後のそれぞれのレクチャーのあとに作曲受講生を対象とした公開レッスンが行われた。多くの観衆の前で自作を発表し、その意見を公開で受けるという形態は、多くの若い作曲学生にとっては極めて緊張を強いることになるであろう。しかし自作を自分の言葉で語るという行為は、今後も何らかの場面で必ず遭遇することとなる。その貴重な経験の場として大いに活用することを願うばかりである。

評者:金井勇(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
東京音楽大学作曲専攻卒業、同大学院修了。2012年、2015年及び2016年武生国際作曲ワークショップ招待作曲家。「新しい地平」における近作としては『from Being』(スロウィンド木管五重奏団)、『to Becoming』(赤坂智子と大田智美)、『邯鄲の夢』(マルコ・デル・グレコ)等がある。また2019年は鈴木優人補筆校訂版のモーツァルト作曲『レクイエム』の武生版オーケストレーションを行った。