武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・我妻英さんに、9月8日に開催されたファイナルコンサートの模様をレポートしてもらいました。
演奏会の幕開けは、白井圭のヴァイオリンと上村文乃のチェロ、吉野直子のハープによるヘンデルの《ヴァイオリン・ソナタ イ長調 Op. 1-3 HWV361》。通常はチェンバロで演奏されることの多い通奏低音パート、今回は吉野のハープによって華麗な色彩を纏うこととなった。緩急自在な白井のヴァイオリンと阿吽の呼吸で支える上村のチェロは、たちまち聴衆を優雅な音楽世界へと惹き込んでいった。
続いて、上野由恵のフルートでヴァレーズ作曲《密度21.5》。曲名は、委嘱者が初演で吹き初めした世界初の白金(プラチナ)製フルートの材質の密度に由来する。キーを打つ音などの奏法も駆使しフルート作品の歴史に革新的な一歩を残した名作を、上野は入魂の表現で魅了。空間を切り裂くような鋭い最高音さえも美しく、会場に深い余韻が広がった。
ここで、急遽ジェイコブ・ケラーマンのギターによる演奏がサプライズ的におこなわれた。本音楽祭の音楽監督 細川俊夫がケラーマンのために2022年に編曲した《日本のうた》から「通りゃんせ」「赤とんぼ」など誰にも馴染みがある5曲を演奏。聴く者の郷愁を誘う、切なくも味わい深い至福のひとときとなった。
後半は、武生国際音楽祭フェスティバル合唱団が登壇して、音楽祭に参加している世界的演奏家により編成された特別なオーケストラとの協演が繰り広げられた。指揮は、第1回ひろしま国際指揮者コンクールで優勝ならびに細川賞受賞の俊英で、前日の新しい地平コンサートⅢにて上野ケン作品の世界初演でも鮮やかなタクト捌きを魅せた大井駿。
宗教改革記念日のためにバッハが書き下ろしたといわれる《カンタータ第80番「われらが神は堅き砦」BWV80》は、壮麗なニ長調のフーガで幕を開けた。その後のアリアやレチタティーヴォや二重唱では、イルゼ・エーレンス(ソプラノ)、小林あすき(アルト)、髙木太郎(テノール)、山下哲弘(バス)による独唱陣の美しくも力強い歌唱が聴衆の心に訴えかける。指揮者の大井はいくつかの曲でオルガンのパート(キーボードによる演奏)を兼任し、古賀裕子のチェンバロと併せて音楽を彩った。
演奏会の最後は、モーツァルトが18歳で作曲した《ディクシットとマニフィカート
ハ長調 K. 193》。今回は、作曲ワークショップアシスタントでもある作曲家 金井勇によるこの公演のための特別な編曲による演奏となる。作品は、ヴェスペレと呼ばれる夕方の礼拝(晩課)の次第の中から開始曲と終曲にのみ作曲されたもので、コンパクトな規模ながら神童モーツァルトの天性の筆致が存分に表れた内容である。金井の編曲は原曲に無いヴィオラやオーボエのパートを加え編成を拡張したもので、より一層豪奢な音響が実現。フェスティバル合唱団とオーケストラの輝かしい演奏に、会場は大いに盛り上がりを見せた。熱狂の中これにて閉幕となった武生国際音楽祭、来年への期待も大きく高まる。(我妻英)