【2024レポート】新しい地平コンサートI・II・III(9月6・7日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・我妻英さんに、9月6・7日に開催された新しい地平コンサートI・II・IIIの模様をレポートしてもらいました。

 武生国際音楽祭の魅力は、第一線で国際的活躍を見せる演奏家たちによる古典のレパートリーの名演奏と併せて、〈いま〉の音楽の姿を伝える最新の作品が特集されることにもある。2日間、3公演にわたっておこなわれた「新しい地平コンサート」では、力の入った現在進行形の創作を全身で感じ取ることの出来る充実のプログラムが展開された。

 9月6日(金)の「新しい地平コンサートⅠ」は、世界初演を3曲含む濃密な内容となった。中でも印象的だったのは、三浦則子《遮断された橋の上で》での上村文乃(チェロ)と山本純子(ピアノ)の演奏に於ける極度の集中力。人々を繋ぐ橋、生者と死者の間を繋ぐ橋。それらの橋が遮断され失われた現代世界に満ち溢れる悲しみ、なおも橋を架けることへの願い。作品に託された重い問い掛けを、二人の演奏は緊張感の張り詰めた切実極まる表現で客席に届けた。

 翌日9月7日(土)の「新しい地平コンサートⅡ」は、多数の世界初演・日本初演を含め全8曲が一堂に会する重量級のプログラム。とりわけ本公演の白眉は、最後を飾った西村朗の《弦楽四重奏曲第5番〈シェーシャ(聖蛇)〉》であろう。奇しくも西村の命日から丁度1年後のこの日に、生前深い信頼関係で結ばれたアルディッティ弦楽四重奏団によってこの作品が演奏される巡り合わせに思いを馳せつつ、その生命力に満ちた音楽に全ての聴衆が固唾を呑んで聴き入った。

 続いての「新しい地平コンサートⅢ」では、今年の招聘作曲家 上野ケンによる新作の衝撃的な世界初演がまず特筆に値しよう。鈴木俊哉の卓越したリコーダー演奏を独奏に想定し映像や音声をも駆使した総合アート的な作品は、演奏会冒頭に置かれた上野ケンのヴォーカル・パフォーマンスと併せて、従来の音楽の概念を超越した稀有な試みとして会場の熱狂的な反応を招いた。後半は、再びアルディッティ弦楽四重奏団が登場し、塚本瑛子(世界初演)と坂田直樹の最新作を演奏。繊細にして豊饒な世界が立ち上がった。

 紙幅の都合で数々の素晴らしい作品と演奏に個々に触れられないのが残念だが、こうした現代の創作の生々しい息遣いを居合わせた聴衆の一人一人が各々の自由な感性で受け止める会場の熱い空気もまた、この音楽祭のかけがえのない財産であることを感じた。

 最後に、今回私はこれらの公演のリハーサル・スケジュールの作成を担当し終日舞台裏に立ち会ったが、本番に全神経を集中させる演奏家たちを細やかな気配りでサポートし演奏会の円滑な進行に貢献する、照明・音響から舞台転換に至るまでの現場の全てのスタッフの尽力に深い感銘を受けた。また、現代作品の演奏ではピアノの内部奏法も用いられるため、細心の調律や楽器の調整が不可欠である。こうしたプロフェッショナルな方々の精密な仕事があってこその演奏会の成功。心からの感謝を捧げずにはいられなかった。(我妻英)