武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・我妻英さんに、9月5日作曲ワークショップの模様をレポートしてもらいました。
この日の作曲ワークショップは、午前に受講生の公開レッスンがおこなわれ、午後のはじめに塚本瑛子による自作についてのレクチャーが労働福祉会館でおこなわれた。

塚本はベルリン在住でドイツを中心に国際的な活躍を展開しており、若い世代を代表する実力派作曲家。2007年に初めてこの武生国際音楽祭を訪れてから本格的に現代音楽への歩みを始めたという塚本。そのレクチャーはまず、音という現象や作曲という行為についての彼女自身の思索を語ることから始められた。
音は現象物理学的に存在し客観的に観測可能なものだが、我々が音楽作品を聴いたり創作したりする場合、それはしばしば一人一人のプライヴェートな感覚に基づく(どう聴こえるかといった他人の感覚は分からない)。また、音楽を受け取る聴覚とその他の感覚には大きな違いがあり、例えば、視覚の場合、目に映る物はずっと存在しており実際に触れることも出来る一方、聴覚の場合は、他の感覚で補えるものが無い、と塚本。作曲とは、サウンドそのものの操作が目的ではないと述べた。音符を含めた音楽のNotationは書かれたものに対応する何かが存在するという前提で成り立っているが、実際にはありとあらゆる複雑な要素をひとつの記号に代表させている、という本質的な指摘。このように、音楽以前にそれを構成する音というものの特性を思考し、作曲という行為の根源や意義を問う姿勢のレクチャーは、受講生にとって自らの創作を改めて見つめ直す貴重な機会になっただろう。
作品は、モダン楽器に比べて音色が不均質という特性を生かすべく試みられたバロック・ファゴットの独奏曲、共同体をテーマに奏者の発話やハミングを用いて脱作品化を図ったピアノの独奏曲、そして音楽の一要素としての静寂や沈黙の力に気付かされたアンサンブルの作品と充実した3作がレクチャー内で取り上げられ、受講生は集中して耳を傾けていた。
続いて、越前市文化センター小ホールにてアルディッティ弦楽四重奏団による公開マスタークラスがおこなわれた。


現代音楽に於いて世界最高峰の演奏団体であるアルディッティ弦楽四重奏団は、今年結成50周年を迎え、今夏来日している。今回は、クァルテット・インテグラの演奏するリゲティ作曲《弦楽四重奏曲第2番》を指導した。アルディッティ弦楽四重奏団のメンバーの助言は、ハーモニクス奏法で高次倍音を奏でる場合の指の押さえる角度や弓の圧力の掛け方に至るまで極めて実践的なものだった。ノイズを生じさせる奏法に於いても、徹底して厳密な音色の追求がなされたのがひときわ印象的であった。もとより驚異的な精度で聴かせたクァルテット・インテグラの演奏は会場の聴講者全員の感嘆を招いたが、アルディッティ弦楽四重奏団の指摘を受けて即座に反応しさらなる高い次元を実現していく様子はまさに圧巻。メンバー間で時折交わされるユーモアにも和まされつつ、会場は白熱した空気に包まれた。


この公開マスタークラスは、森紀明が通訳を担当。自身も作曲家・演奏家の顔を持つ彼は、複雑な楽曲の構造や専門的な演奏法などについての内容も聴講者に伝わる明快な通訳をおこない、公開マスタークラスの円滑な進行に貢献してくれた。この場を借りて感謝したい。(我妻英)
