武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月4日作曲ワークショップの模様をレポートしてもらいました。
ワークショップ3日目は、まず昨日に引き続き招待作曲家の上野ケンによる2回目のレクチャー。初日のオープニングコンサートではマイクを駆使したヴォイス・パフォーマンスを行い会場に異彩を放った上野。近年はドローンを駆使したプレジェクトなども実践し、そのイマジネーションと幅広い活動の展開、そしてそれを実行し実現する能力は無限である。他領域への知的関心の弛み無い探究の姿勢にも心から感服する。「食」も重要なファクターとして捉えている、という観点も興味深い。
上野の作品は9月6日のメインコンサート「細川俊夫と仲間たち」でアルディッティ弦楽四重奏団による新作、9月7日の「新しい地平コンサートIII」では自作のパフォーマンス、鈴木俊哉のリコーダーを独奏とした新作協奏曲の初演がある。レクチャーの最後に、この度のリコーダーの新作へのアプローチにも触れ鈴木俊哉との共同制作の様子が紹介されたが、映像を交え駆使した衝撃的なステージになることは間違い無いだろう。
続いてやはりこの度の招待作曲家、メキシコ生まれで長くロンドンに在住しているイルダ・パレデスによるレクチャーが行われた。近作のオペラを中心に、迫害された者、周縁に追いやられた者の心の声・叫びを聞き取る姿勢を語りつつ、いくつかの興味深い自作を紹介した。
パレデスは、自身が作曲家としてコンサートホールで人権問題に対する認識を高めることが重要だと述べる。音楽は「我々を人間として際立たせる感情を全面に押し出す力を持つ」とする。作曲家としての彼女が信じる自身の役割は、音楽は声を失った人々へ声を与えること。そしてそれは私たち全員が共有する人間性とつながる手助けとなると信じる。「音楽が導くままに人間の精神性を全面に引き出し、聞かれない声に届けること。音楽が、聞こえないものを聞く手助けとなり、黙らされていた人々の内なる魂と、後に続く人々との繋がりを持たせるのかもしれない。」と強調した。
パレデスの作品は9月6日の「細川俊夫と仲間たち」でアルディッティ弦楽四重奏団と北村朋幹とのピアノ五重奏、9月7日の「新しい地平コンサートII」でのヴィオラとチェロの二重奏(2018年に委嘱をされたが初演されていない!新作)が演奏される。
午後は作曲ワークショップ主催の遠足が行われた。教室を離れた束の間の休息。今年は大塩八幡宮とオーディオテクニカ・フクイを訪問。講師・受講生・スタッフを含め27名が参加した。
越前市の南方に佇む平安時代時創建の大塩八幡宮は病や災いを払う霊験あらたかな古社。境内には神の水が流れ、神の木が聳える。檜皮葺の拝殿は国の重要文化財。武生国際音楽祭ではかつて数年に渡り、この拝殿をステージにコンサートが行われたという。海外からの参加者も一同に、神道のマナーで各自参拝し、あとは境内や奥に広がる森を自由に拝観した。
その後移動し越前市の北方に位置する、福井県を代表する企業・オーディオテクニカ・フクイを見学した。レコード針の製造を起点に、ヘッドホン、マイク等現在の我々の生活に必需となっているオーディオ製品の製造・販売を展開する。特にカラオケで使用する赤外線マイクの国内シェアの8割はこの企業の製品であるという。総務部スタッフがプレゼンテーションの形式で会社の歴史と製品などの紹介。その後、工場内部を見学。そして、音響機器のテストのために外部音が遮断され反射音を抑えた「無響室」と、ワイヤレスマイクなどの電波測定のための「電波暗室」へ入る刺激的な体験を行なった。
ところで外国人参加者のために、ワークショップ専任通訳のグロスベック・ギャレットが通訳を引き受けてくれた。アメリカ出身で名古屋をはじめ日本在住歴が長い彼は、日本の事情や日本人の習慣も完全に理解し、オーディオテクニカ・フクイのスタッフのダジャレをも通訳する有能ぶりである。(外国からの参加者に神社でのマナーも伝授していた!)その博識と言語力、親しく接してくれる態度への喜びも合わせ、この度の協力を心から感謝している。(金井勇)
