【2024レポート】フルート&ハープの名曲と「浄夜」 (9月5日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・神山奈々さんに、9月5日 フルート&ハープの名曲と「浄夜」コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月5日(木)メインコンサートは、フルート&ハープの名曲と「浄夜」。コンサートの前半はフルートとハープという編成に焦点あてたプログラム。フルートはマリオ・カーロリ、ハープの吉野直子で演奏されました。1曲目のロータ作曲のソナタは、可憐な楽曲。2楽章の弱奏の表現が際立つ演奏でした。続くジョリヴェ作曲の嬉遊曲「素朴に」は牧歌的で親しみやすいメロディの一方で緻密なアンサンブルが要求される技巧的な楽曲。ヴィルトゥオーゾの演奏によるフルートの音色の多彩さには驚かされました。

クラ作曲の「組曲」は、反復されるアフリカのリズムが特徴的な楽曲。未知の世界への憧れを明るく感じさせるような躍動的な演奏を実現していました。

細川俊夫作曲「アラベスク」は、フルートとハープにヴィオラを加えた編成でした。ヴィオラはこの音楽祭に毎年参加している田原綾子です。ハープによって作られる「場」からフルートとヴィオラが生まれてくるような音楽。終盤のハープソロが際立って美しく素晴らしい演奏でした。

 演奏会の後半はシェーンベルク作曲、弦楽六重奏曲「浄夜」。ヴァイオリンは、白井圭、山根一仁。ヴィオラは、山本周、田原綾子。チェロは、上野通明、柴田花音。
 まず後期ロマン派の作品を演奏する上で、物語を含んだ楽曲の構造を全員が前提として自然に理解し共有していることが素晴らしかったです。また、この曲は大変演奏が難しい弦楽合奏ですがそれを全く感じさせず、高い集中力で退廃的かつ繊細な表現を作っていたことに驚嘆させられました。曲の後半、調性が明転してからの部分は高らかに歌いすぎず、温かく優しいチェロの旋律が柔らかな希望のように響きました。(神山奈々)

9月6日19時30分~ 細川俊夫と仲間たち 曲順変更のご案内

本日の細川俊夫と仲間たちの曲順が変更されております。遠方から来られる方は特にご注意ください。
1. ノーノ:. . . . .苦悩に満ちながらも晴朗な波…
2. 上野ケン:陰影礼賛
3. パレデス:ソブレ・ディアロゴス・アポクリフォス
4. リゲティ:弦楽四重奏曲第2番
5. 細川俊夫:オレクシス

【2024レポート】〈うた〉で結ばれたウィーン音楽の伝統 (9月4日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・我妻英さんに、9月4日 〈うた〉で結ばれたウィーン音楽の伝統 コンサートの模様をレポートしてもらいました。

 「声」こそは、人間が恐らく最初に手にした楽器だろう。そして「うた」は、人間が声という楽器を通して初めて知った音楽に違いない。ゆえに、声とうたは音楽の始源。『〈うた〉で結ばれたウィーン音楽の伝統』と題されたこの演奏会は、西洋音楽の中心都市ウィーンで築かれてきた〈うた〉の伝統に思いを馳せながらその歴史を辿る旅となった。

 演奏会は、イルゼ・エーレンスのソプラノとジェイコブ・ケラーマンのギターによるシューベルトの3つの歌曲《万霊節のための連祷 D 343》《死と乙女 D 531》《君こそやすらい D 776》で幕を開けた。エーレンスは一曲一曲キャラクターの異なる圧倒的な歌唱で聴衆を魅了し、ケラーマンのギターはシューベルトのリートが持つ素朴で親密な表情を存分に描いた。

 続いて、シューベルトの死の僅か2か月前に作曲された歌曲《岩上の羊飼い D 965》。エーレンスの力強い歌唱に北村朋幹のピアノと上田希のクラリネットが呼応するドラマは、先のギターとの協演とはまた異なった劇的世界観を提示し、ひとつの小さな交響曲さながらであった。

 マーラーの音楽が持つシューベルトとの親近性はしばしば指摘される。しかし、それに加えて80年ほど時代を下ったマーラーの歌曲には、後期ロマン派に特有の複雑な響きが陰影を落とし、それはときに人間の深層心理を浮かび上がらせる。マーラーの《リュッケルト歌曲集》からの3曲で描かれる甘美な退廃と明暗の色彩、そして激しい恍惚。これらに表れた新ウィーン楽派の音楽へもうあと一歩という趣を、エーレンスと北村が美しく表現した。

 ここで、今年のテーマである弦楽四重奏の世界へ。ベートーヴェンの《弦楽四重奏曲第7番 Op. 59-1「ラズモフスキー第1番」》は、当時35歳だった楽聖の「音楽革命家宣言」ともいうべき内容を持ち、その先進性は時代を越えて今なお色褪せない。クァルテット・インテグラの演奏は鮮烈の一言に尽き、ベートーヴェンの革新的な音楽性を余すところなく浮き彫りにした。

 演奏会の最後は、新ウィーン楽派の代表者で今年生誕150年を迎えたシェーンベルクの《弦楽四重奏曲第2番 Op. 10》から第3楽章と第4楽章。本作中のこの日演奏された2つの楽章は、弦楽四重奏曲としては極めて例外的にソプラノ独唱が入ることで知られる。歌われるのはドイツの象徴主義の詩人シュテファン・ゲオルゲの超現実的なテクスト。音楽の歴史を革新した弦楽四重奏曲という点に於いて約一世紀前の先のベートーヴェンとの共通項があり、直接交流のあった15歳ほど年長のマーラーの後期ロマン派の音楽性を継承し、またソプラノ独唱に於いてはシューベルト以来のドイツ・リートの歴史のひとつの到達点という意味で、当夜のプログラムは最後のシェーンベルク作品で見事な帰結を見ることとなった。エーレンスの情熱的な独唱とクァルテット・インテグラの精緻な演奏は、爛熟した表現主義から実った最良の果実のひとつというべきこの作品の充実ぶりを見事に描き尽くし、聴く者に熱い思いを抱かせた。(我妻英)

【2024レポート】楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べコンサート(9月3日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月3日 楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べ コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月3日(火)のメインコンサートは伊藤恵プロデュースの第1弾。「楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べ」と題した、ウィーンにゆかりの作曲家たちの弦楽作品のコンサートであった。

冒頭はエール弦楽四重奏団によるヴェーベルン『弦楽四重奏のための5つの楽章』。師シェーンベルクの無調世界への移行と歩みを共にした初期の作品。厳格な構図が保たれた精緻なミニアチュール。変化に富んだダイナミクスと大胆な音の変化が際立つ第1楽章は緊張感あふれる息遣いから勢いよく開始された。
この日の2ndヴァイオリンは山根一仁。2ndの山根が担う冒頭の気が曲全体のテンションを決定したかのようであった。奏者たちの精密でありながら激しい音の対話が織り成す不安定な世界が浮かび上がる。田原綾子のヴィオラがリードする第2楽章は緊張感を孕む緩徐楽章。弱音の移ろいは静謐さと緊張感の微妙なバランスを保ちつつ、深い内面世界へと沈み行く。「きわめて活発」でリズミカルな第3楽章。奏者たちが一体化して急迫する劇的な「40秒」であった。4楽章は精緻に舞い上がる幻想。各人の「うた」が丁寧に織り成される。上野通明によるチェロのモノローグが繋ぐ5楽章。密やかな会話が注意深く織り合わされ毛利文香によるヴァイオリンの静かな語りを包み込むように、全体は透明な時空に溶け込んでいくようであった。

 続いて伊藤恵プロデューサーのピアノと毛利、田原、上野が綴るモーツァルトの『ピアノ四重奏曲第1番』。
鋭く緊張感のある面差しで始まる第1楽章は、弦楽器セクションの瑞々しい表現の隙間を縫うように、伊藤のピアノが空から舞い降りるような軽やかさで姿を現す。緩やかで美しい第2楽章は弦楽器とピアノが優しく誘い合いながら織りなす、穏やかな対話であった。躍動感あふれる第3楽章は軽やかなリズムと多彩で鮮やかなメロディーが交錯する。伊藤のピアノが時に全体を柔らかく包み込み、時に力強くリードし、透明感あふれる弦楽セクションとの愛情深い交歓を紡ぎ出す。

後半はシューベルトの名曲『弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」』。曲は病の床にある乙女と死神との対話に基づく自作歌曲に由来する。「死」は永遠の安息として描かれる。全4楽章。全曲が短調という構成。トップの白井圭と荒井里桜のヴァイオリン、山本周のヴィオラ、柴田花音のチェロ。

切迫した表情で突如切り出される第1楽章は堅牢な構成を持つソナタ楽章。威風堂々と空間に音が刻まれる精緻な楽の共鳴が、聴衆の心に鮮明に響き渡る。死の孤独に対する慄きと安息の感情が混在した悲痛な第2楽章では、溢れる感情が張り詰める白井圭のソロは上野のチェロへと引き継がれる。ニ短調のスケルツォである第3楽章。断固とした、陰りに向かうような求心的な奏者たちの足取りが、死の影を引き寄せるように響き渡る。第4楽章は、これまでを回帰するように様々なエピソードが連なり現れる。緻密に揃った斉奏を軸に、ダイナミックな強弱の変化を伴いながら駆け抜ける。その音楽的なエネルギーは聴き手を大いに魅了した。(金井勇)

【2024レポート】作曲ワークショップ(9月4日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月4日作曲ワークショップの模様をレポートしてもらいました。

ワークショップ3日目は、まず昨日に引き続き招待作曲家の上野ケンによる2回目のレクチャー。初日のオープニングコンサートではマイクを駆使したヴォイス・パフォーマンスを行い会場に異彩を放った上野。近年はドローンを駆使したプレジェクトなども実践し、そのイマジネーションと幅広い活動の展開、そしてそれを実行し実現する能力は無限である。他領域への知的関心の弛み無い探究の姿勢にも心から感服する。「食」も重要なファクターとして捉えている、という観点も興味深い。

上野の作品は9月6日のメインコンサート「細川俊夫と仲間たち」でアルディッティ弦楽四重奏団による新作、9月7日の「新しい地平コンサートIII」では自作のパフォーマンス、鈴木俊哉のリコーダーを独奏とした新作協奏曲の初演がある。レクチャーの最後に、この度のリコーダーの新作へのアプローチにも触れ鈴木俊哉との共同制作の様子が紹介されたが、映像を交え駆使した衝撃的なステージになることは間違い無いだろう。

続いてやはりこの度の招待作曲家、メキシコ生まれで長くロンドンに在住しているイルダ・パレデスによるレクチャーが行われた。近作のオペラを中心に、迫害された者、周縁に追いやられた者の心の声・叫びを聞き取る姿勢を語りつつ、いくつかの興味深い自作を紹介した。

パレデスは、自身が作曲家としてコンサートホールで人権問題に対する認識を高めることが重要だと述べる。音楽は「我々を人間として際立たせる感情を全面に押し出す力を持つ」とする。作曲家としての彼女が信じる自身の役割は、音楽は声を失った人々へ声を与えること。そしてそれは私たち全員が共有する人間性とつながる手助けとなると信じる。「音楽が導くままに人間の精神性を全面に引き出し、聞かれない声に届けること。音楽が、聞こえないものを聞く手助けとなり、黙らされていた人々の内なる魂と、後に続く人々との繋がりを持たせるのかもしれない。」と強調した。

 パレデスの作品は9月6日の「細川俊夫と仲間たち」でアルディッティ弦楽四重奏団と北村朋幹とのピアノ五重奏、9月7日の「新しい地平コンサートII」でのヴィオラとチェロの二重奏(2018年に委嘱をされたが初演されていない!新作)が演奏される。

午後は作曲ワークショップ主催の遠足が行われた。教室を離れた束の間の休息。今年は大塩八幡宮とオーディオテクニカ・フクイを訪問。講師・受講生・スタッフを含め27名が参加した。

越前市の南方に佇む平安時代時創建の大塩八幡宮は病や災いを払う霊験あらたかな古社。境内には神の水が流れ、神の木が聳える。檜皮葺の拝殿は国の重要文化財。武生国際音楽祭ではかつて数年に渡り、この拝殿をステージにコンサートが行われたという。海外からの参加者も一同に、神道のマナーで各自参拝し、あとは境内や奥に広がる森を自由に拝観した。

その後移動し越前市の北方に位置する、福井県を代表する企業・オーディオテクニカ・フクイを見学した。レコード針の製造を起点に、ヘッドホン、マイク等現在の我々の生活に必需となっているオーディオ製品の製造・販売を展開する。特にカラオケで使用する赤外線マイクの国内シェアの8割はこの企業の製品であるという。総務部スタッフがプレゼンテーションの形式で会社の歴史と製品などの紹介。その後、工場内部を見学。そして、音響機器のテストのために外部音が遮断され反射音を抑えた「無響室」と、ワイヤレスマイクなどの電波測定のための「電波暗室」へ入る刺激的な体験を行なった。

ところで外国人参加者のために、ワークショップ専任通訳のグロスベック・ギャレットが通訳を引き受けてくれた。アメリカ出身で名古屋をはじめ日本在住歴が長い彼は、日本の事情や日本人の習慣も完全に理解し、オーディオテクニカ・フクイのスタッフのダジャレをも通訳する有能ぶりである。(外国からの参加者に神社でのマナーも伝授していた!)その博識と言語力、親しく接してくれる態度への喜びも合わせ、この度の協力を心から感謝している。(金井勇)