【2024レポート】楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べコンサート(9月3日)

武生国際音楽祭2024に参加中の作曲家・金井勇さんに、9月3日 楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べ コンサートの模様をレポートしてもらいました。

9月3日(火)のメインコンサートは伊藤恵プロデュースの第1弾。「楽都(ウィーン)に響く弦楽の調べ」と題した、ウィーンにゆかりの作曲家たちの弦楽作品のコンサートであった。

冒頭はエール弦楽四重奏団によるヴェーベルン『弦楽四重奏のための5つの楽章』。師シェーンベルクの無調世界への移行と歩みを共にした初期の作品。厳格な構図が保たれた精緻なミニアチュール。変化に富んだダイナミクスと大胆な音の変化が際立つ第1楽章は緊張感あふれる息遣いから勢いよく開始された。
この日の2ndヴァイオリンは山根一仁。2ndの山根が担う冒頭の気が曲全体のテンションを決定したかのようであった。奏者たちの精密でありながら激しい音の対話が織り成す不安定な世界が浮かび上がる。田原綾子のヴィオラがリードする第2楽章は緊張感を孕む緩徐楽章。弱音の移ろいは静謐さと緊張感の微妙なバランスを保ちつつ、深い内面世界へと沈み行く。「きわめて活発」でリズミカルな第3楽章。奏者たちが一体化して急迫する劇的な「40秒」であった。4楽章は精緻に舞い上がる幻想。各人の「うた」が丁寧に織り成される。上野通明によるチェロのモノローグが繋ぐ5楽章。密やかな会話が注意深く織り合わされ毛利文香によるヴァイオリンの静かな語りを包み込むように、全体は透明な時空に溶け込んでいくようであった。

 続いて伊藤恵プロデューサーのピアノと毛利、田原、上野が綴るモーツァルトの『ピアノ四重奏曲第1番』。
鋭く緊張感のある面差しで始まる第1楽章は、弦楽器セクションの瑞々しい表現の隙間を縫うように、伊藤のピアノが空から舞い降りるような軽やかさで姿を現す。緩やかで美しい第2楽章は弦楽器とピアノが優しく誘い合いながら織りなす、穏やかな対話であった。躍動感あふれる第3楽章は軽やかなリズムと多彩で鮮やかなメロディーが交錯する。伊藤のピアノが時に全体を柔らかく包み込み、時に力強くリードし、透明感あふれる弦楽セクションとの愛情深い交歓を紡ぎ出す。

後半はシューベルトの名曲『弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」』。曲は病の床にある乙女と死神との対話に基づく自作歌曲に由来する。「死」は永遠の安息として描かれる。全4楽章。全曲が短調という構成。トップの白井圭と荒井里桜のヴァイオリン、山本周のヴィオラ、柴田花音のチェロ。

切迫した表情で突如切り出される第1楽章は堅牢な構成を持つソナタ楽章。威風堂々と空間に音が刻まれる精緻な楽の共鳴が、聴衆の心に鮮明に響き渡る。死の孤独に対する慄きと安息の感情が混在した悲痛な第2楽章では、溢れる感情が張り詰める白井圭のソロは上野のチェロへと引き継がれる。ニ短調のスケルツォである第3楽章。断固とした、陰りに向かうような求心的な奏者たちの足取りが、死の影を引き寄せるように響き渡る。第4楽章は、これまでを回帰するように様々なエピソードが連なり現れる。緻密に揃った斉奏を軸に、ダイナミックな強弱の変化を伴いながら駆け抜ける。その音楽的なエネルギーは聴き手を大いに魅了した。(金井勇)