9月8日 音楽祭短評②(金井勇)

 9月8日(木)のメインコンサートでは、伊藤恵プロデュースの第2夜「ソプラノと弦楽の調べ」が行われた。

 前半はソプラノの半田美和子が登場し、20世紀歌曲の軌跡を辿るプログラムを披露した。初めにウェーベルンの初期の作品『シュテファン・ゲオルゲの「第七の環」による5つの歌』(1909)。1つの楽章が1分ほどの演奏時間の、削ぎ落とされた極小の世界。この凝縮された音宇宙を半田はマキシマムな集中度でもって幅広く表現した。ピアノは北村朋幹。

 2曲目はR・シュトラウスの最晩年の傑作『4つの最後の歌』(1948)。しなやかに響き渡る歌声は、ヘッセの詩の言葉を借りれば「夜の魔法の世界の中へと解き放たれた魂」のようであり、聴衆は、シュテファン・ゲオルゲではないが「忘我」の心地で確かに「他の惑星からの大気」を感じたであろう。

 続いてクセナキスのピアノ五重奏である『アケア』。武生国際音楽祭でもメインコンサートの中心を担っている若手弦楽奏者たちが20世紀の「難解な」作品の演奏に向かい合うことでもちょっとした事件であるが、ピアノの独奏を伊藤恵プロデューサー自身が担当したことは極めて新鮮なものであった。前日にアルディッティ弦楽四重奏団による『アケア』のための公開レッスンが行われた。この作品に縁の深いアルディッティならではの緻密な指導を奏者たちはひたむきに受ける姿を見届けたが、それが昇華した本番の演奏に立ち会えたことに大いに感激した。

 コンサート後半は、シューベルトの弦楽四重奏第14番「死と乙女」。毛利文香がトップを務め、白井圭(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)と武生国際音楽祭の中核をなす顔ぶれにヴィオラの三国レイチェル由依が加わり、新たな組み合わせでの演奏となった。シューベルトの傑作をこのメンバーとフォーメーションで聴くのはこれもまた新鮮な体験であった。旋律の紡ぎ合いの立体感、随所にちりばめられた対比、高まる響きの親密度。これらが一体化してフィナーレへと至る。プログレッシヴな演奏を通じて改めてシューベルトの魅力を発見できた心持である。(金井勇)

評者:金井勇(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
東京音楽大学作曲専攻卒業、同大学院修了。2012年、2015年及び2016年武生国際作曲ワークショップ招待作曲家。「新しい地平」における近作としては『from Being』(スロウィンド木管五重奏団)、『to Becoming』(赤坂智子と大田智美)、『邯鄲の夢』(マルコ・デル・グレコ)等がある。また2019年は鈴木優人補筆校訂版のモーツァルト作曲『レクイエム』の武生版オーケストレーションを行った。