9月10日 音楽祭短評(木下正道)

 10日の演奏会は3つある(新しい地平II、III、弦楽四重奏の夕べ)のですが、当日のゲネプロ(通し練習)も勿論行います。3公演分、全部で13曲を、最初の演奏会の開場時間までに終えなければなりません。ということは朝早くから始まるということで、この日は8時50分からでした。そして、演奏曲目順にやっていると、ピアノを頻繁に動かしたり、奏者が無駄に待たされたりなどの不都合が生じるので、他の練習のスケジュールも見つつ、なるべくスムーズに流れるように、ゲネプロの順番を組んでいます。私はもうかなり長い間この作業をやっていますが、今年が最も複雑だったかもしれません。普通はこういうことをやるとパニックに陥ると思いますが、武生の裏方は世界最高水準ですので、テキパキとこなすことができます。
 というわけでこの日もなんとか予定していた開場時刻に間に合い、お客様をお待たせし過ぎずにご入場いただけました。尺八の田嶋先生が事情で来られなくなってしまったので、高木日向子さんの作品を演奏できなかったのは残念でした。その代わりに小林純生さんの作品を鈴木俊哉さんの独奏で演奏致しました。
 IIは割と静謐な作品が並んでいたと思います。武生のホールは小さな音でも響きに埋もれることなく十分聴き取ることができます(かつ十分に残響はあるのです)ので、このような作品たちにはうってつけです。最後を締めたブーレーズのソナチネは、アンサンブルの新たな可能性を感じさせる知的かつ抉りの効いた演奏だったと思います。
  IIIはワークショップの講師の作品が中心でした。サックスの演奏技術の限界に挑むソルビアーティ作品、つねに揺れ動き、響きが変容するパレデス作品など、充実した演奏会でした。
 「弦楽四重奏の夕べ」は、ウェーベルンのop28、バルトークの4番、ベートーベンの14番という極め付きの名曲が並びました。武生のホールですと、各奏者の息遣いや細かい音形のニュアンスがしっかりと聴き取ることができます。演奏は勿論切れ味、叙情性、構成感など申し分なく、弦楽四重奏の深い歴史と喜びに満ちた音楽を堪能いたしました。

評者:木下正道(第21回武生国際作曲ワークショップ アシスタント作曲家)
1969年、福井県大野市生まれ。2013年からは「武生国際音楽祭・新しい地平」の運営アシスタントを務める。ここ数年は主に室内楽曲を中心として年間20曲程度を作曲、初演。現在は、様々な団体や個人からの委嘱や共同企画による作曲、優れた演奏家の協力のもとでの先鋭的な演奏会の企画、通常とは異なる方法で使用する電気機器による即興演奏、の三つの柱で活動を展開する。東京近辺で活動する現代音楽に関心を寄せる演奏家のほとんどがその作品を初演、再演している。