本年度の武生国際作曲ワークショップのアシスタントの作曲家・金井勇さんに武生国際音楽祭のレポートを頂きましたので、掲載いたします。
8月30日(日)の開幕を予定していた武生国際音楽祭は、未明から福井県内の広い範囲を襲った大雨の影響により、開幕を飾るオープニングコンサートが中止となった。翌31日(月)はコンサートの開催がなかったことから、9月1日(火)が今回の音楽祭における事実上のコンサート初日となった。
そうした異例の幕開けとなった今回の音楽祭であるが、演奏に先立って武生国際音楽祭の笠原章理事長が挨拶に立った。世界がますます混沌とし、先行きの見えない時代だからこそ、人間と文化はいかにあるべきか。笠原理事長は、深い歴史と豊かな文化が息づくこの武生の地でこそ、その問いを考える意義があると語った。
さて第37回を迎える今年の音楽祭のテーマは、「フランス&イタリア 室内楽の豊穣」。9月1日は、コンサートプロデューサーを務める伊藤恵によるプロデュース企画の第1弾「煌めく色彩の魔術」と題したコンサートが行われた。ドビュッシー、ラヴェル、フォーレという3人の作曲家を通して、フランス音楽が育んできた「色彩」の豊かさを、室内楽ならではの親密な響きのなかで味わうひとときとなった。
1曲目は、ドビュッシーの《弦楽四重奏曲 ト短調》。
・〈生き生きと、決然と〉と題された第1楽章は、堂々としたユニゾンで始まる。それはまるで、内に醸成されたエネルギーが一気に迸り出るかのようであり、ドビュッシーの情熱が鮮烈に表出する。水野優也のチェロが随所で頼もしく音楽の骨格を支え、緊密なアンサンブルが重厚で密度の高い色彩を織りなし、聴き手を一気にその音の世界へと引き込んだ。
・ピチカートが跳ね、律動的な動きが交錯する第2楽章は、軽妙さのなかに鋭い緊張感を孕む。異国情緒を纏った、山本周のヴィオラの歌が妖しくも機知に富んだ音の戯れへと導く。
・第2ヴァイオリンの外村理沙のソロで始まる、抒情と神秘を湛えた第3楽章。その旋律は静かに受け継がれ、楽器から楽器へと歌が手渡されるように、ときに情熱の閃きを見せながら、音楽は深く洗練された瞑想へと向かっていく。
・第3楽章から引き継がれた静かな瞑想へと溶けゆくかのように思われる第4楽章は、しかし、堰を切ったように鮮烈な奔流へと転じる。荒井里桜のヴァイオリンが生き生きと、しかし気高くその流れを導き、音楽は一気に華やかな高揚へと至った。
2曲目はラヴェルの《ピアノ三重奏曲 イ短調》。
・バスクの民族舞曲を思わせるリズムと、精緻な色彩が交錯する第1楽章。吉見友貴の静かなピアノソロが弦楽器を誘い出し、やがて内に秘めた情熱が燃え上がる。幾重にも重なった色彩は、やがて再び静謐へと帰っていく。
・縦横無尽に駆け巡るピアノの超絶技巧に駆り立てられ、疾走する第2楽章。強靭な山根一仁のヴァイオリンと雄渾な上野通明のチェロが対話を交わし、3つの楽器が緊密にせめぎ合いながら、音楽は一気に駆け抜けていく
・深い瞑想性と端正なエレガンスを湛えた吉見のソロで静かに始まる第3楽章。静けさの奥に情感を滲ませ、やがて音楽はほのかに熱を帯びながら、静かで厳かな余韻へと至った。
・激しい律動と濃密な響きが奔流となり、精緻な音の織物を鮮烈な高揚へと導く第4楽章。吉見の峻烈な、そして山根と上野の凛然たる響きが互いに触発し合い、音楽は次第に昂揚の度を増していく。
休憩を挟んで後半はフォーレの《ピアノ五重奏曲第2番 ハ短調》。
・第1楽章は、伊藤プロデューサーの流れるピアノのせせらぎに田原綾子のたおやかで朗々としたソロが浮かび、弦楽器の各奏者へと歌がリレーされていく。ピアノを背景に弦楽が高揚するにつれ、「新鮮な虹色の輝き」と称されるように、次第に鮮やかな光を放ち始める。
・軽やかな熱狂と瀟洒な趣を湛えたスケルツォの第2楽章。点描的なピチカートと弦楽器の流麗なレガート、無窮動のように駆け巡るピアノが自在に交錯し、5人の響きが一体となって、鮮やかに駆け抜けていく。
・田原のヴィオラが神秘的に導くソロで始まる第3楽章。弦楽四重奏の静かな問いかけに、伊藤プロデューサーの瑞々しい情感を湛えたピアノが歌うように応じ、親密で美しい対話が静かに繰り広げられる。
・生命力と軽やかさ、そして素朴な喜びに溢れた、リズムとハーモニーの色彩が目まぐるしく交錯する第4楽章。開放的な歓喜から内省的な表情へと移ろう音楽。田原の滋味を湛えたヴィオラに、荒井里桜と毛利文香の馥郁としたヴァイオリンが呼応し、柴田花音の清澄なチェロが支える。深い陰影を湛えた伊藤恵のピアノは、時空に呼吸するようなリズムを与える。弦楽四重奏とピアノが織りなす親密な響きは、聴き手を深い感銘へと導いた。さらに、鮮やかな衣装に彩られた4人の姿そのものが舞台に色彩を添え、耳で聴く音楽と目に映る色彩とが重なり合う。フランス近代音楽が育んできた「色彩」の系譜を思わせる、まさに「煌めく色彩」を鮮やかに印象づける演奏となった。
