室内楽の魅力

コラム:室内楽の魅力

武生国際音楽祭では例年、クラシックから現代音楽まで室内楽を重点的に取り上げています。普段無意識に使っているこの言葉、そもそもどういった意味なのでしょうか?室内楽の魅力はどこにあるのでしょうか?

室内楽の歴史

まちなかコンサート

演奏家と聴衆との距離の近い武生国際音楽祭の「まちなかコンサート」は、室内楽成立当初の雰囲気をよく表しています

「室内楽」という言葉は、現在では「小規模編成のアンサンブル(各パート基本一名)による、プライベートな場や小さめのホールなどの限定された空間で演奏されることを意図して作られた曲」の意味で使われています。その歴史は古く、用語の上では16、17世紀のムジカ・ダ・カメラ(イタリア)やカンマームジーク(ドイツ)に遡ります。当時のヨーロッパにおいてこのような室内向けの音楽の需要が高まった背景には、裕福な貴族や市民が個人ないしは親しい友人と共に音楽を聴いたり演奏したりして楽しむ文化が発達していったことが挙げられます。また、演奏会としての「コンサート」も近世ヨーロッパで誕生し、そこでは室内楽のレパートリーが中心となって演奏されたことを考えれば、室内楽とコンサートとは両者の成立当初から密接な関係にあったといえるでしょう。
こうした商業的コンサートは近代には一般的となり、それまで貴族の庇護の元で活動してきた音楽家が自立して創作活動を行うための重要な場になっていきます。このこともあり、18世紀末から19世紀初頭にかけてウィーンで活躍したハイドン、モーツァルト、ベートヴェンや、その後に続く作曲家たちは大規模なオーケストラを使った作品だけでなく、小編成のアンサンブルによる傑作も数多く残してきました。ウィーン古典派以降の19世紀の音楽史の大きな流れとしては、交響曲やオペラに代表される作品の重厚長大化が挙げられます。また、それらの大作が日本でのコンサートでの主流になっているのも確かです。しかし同時に室内楽のレパートリーも、身近な音楽として市民に好まれ続けてきたことを忘れるわけにはいきません。室内楽02

更に20世紀に入ると、室内楽は小規模編成によるフットワークの軽さゆえに、作曲家が自由に音楽上の実験を行える場となりました。また、プロの演奏家による室内楽アンサンブルが数多く設立されたのも20世紀のことであり、作曲家と演奏家の緊密な共同作業の中から数多くの名曲が生まれてきました。

室内楽の聴きどころ

さて、このような歴史をたどってきた室内楽ですが、その聴きどころは一体どこにあるのでしょうか。

20世紀以降の室内楽作品では、ちょっと変わった編成も楽しめます

20世紀以降の室内楽作品では、ちょっと変わった編成も楽しめます

まず演奏の面では、少人数による演奏のために必然的に各演奏家が必然的にソロパートを担当することになります。これは演奏家にとって責任は重大ですが、同時に自分の技術を思う存分見せる絶好の機会でもあります。室内楽を聴く時の楽しみの一つは、個々の演奏家のいい意味での緊張感や技量を堪能できる点にあります。
また、基本的に指揮者なしで演奏される室内楽では、演奏家の間で呼吸を合わせることがより重要になってきます。それぞれの楽器がどのように互いに「会話」をしながら一つの音楽を作っていくのかを十分に鑑賞できるのも、室内楽を聴く上での魅力といえるでしょう。
曲に秘められた作曲家の意図を読み解く上でも、室内楽にはオーケストラ曲にない楽しみがあります。アンサンブルのために作られた曲は大規模編成の曲と比べ、各楽器の細やかな動きや個々の楽器に対する作曲家のこだわりがよく分かるようになっています。このことは、聴衆に「考えながら聴く」ことが求められることの多い現代音楽では特に大切な点です。

以上のように、選りすぐりの演奏家たちによる小編成の室内楽には独特の魅力があります。武生国際音楽祭2016でも、楽しい室内楽コンサートを多数開催いたします。皆さんぜひ足をお運びください!